紗季のほのぼの事務所ライフ ~番外編:尾行調査と初夏の空~

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駅前からほど近い商店街、様々な店が軒を連ねる通りに寄り添うように植えられた街路樹も青々とした葉を茂らせ、本格的な夏を迎える準備は万全、といった感じだ。そんな木々たちの様子に応えるかのように、この時期にしては少々強い陽射しと熱気が街全体を包み込んでいる。
外回りの会社員や学校帰りの学生達の中には上着を脱いで、手で首元を扇いでいる者も居る。
街の人々が行き交う商店街の一角に立つ小さな雑居ビル、その中に小さなオフィスを構える「鑑探偵事務所」も例外なく迫る熱気に当てられているはず、だったのだが――

「『鑑探偵事務所』というのはこちらで間違いないかしら?」

「…………はい、そうですけど」

唐突に鳴らされたインターホンに反応して紗季が戸口に出ると、一人の女性がピリピリした様子で立っていた。
少し気の強そうな感じがするけど、とても華やかで綺麗な女性だ。年はわたしと同じくらいだろうか?
普段あまり会うことの無いタイプの人間を目にしてしまったので、一瞬、変な間が空いてしまい、それを取り繕うように応対する。

「えーっと……どのような御用でしょうか?」

「依頼をしに来たのよ。ここは探偵事務所なんでしょう? ここならどんな依頼でも受けてくれるって聞いたから訪ねてきたのだけど?」

ちょっと怒ったようなトーンで女性が答える。
ピリピリした感じの依頼者も時々訪れるが、わたしは未だにこの手の依頼者に慣れない。
こちらに向けられている視線から目を逸らすように、今日の事務所のスケジュールを確認する。

「少々お待ち下さい……この後の予定は特に無し、ね。どうぞ、お入り下さい」

「…………」

不機嫌そうな表情で、女性は押し黙ったまま紗季に案内され事務所の中に入っていく。

「探偵さーん、依頼をお願いしたいという方がいらっしゃいましたよ?」

「んー……手紙なら後で目を通しておくから、そこに置いておいてくれたまえ。今すごく良いところなんだよ!」

テレビで再放送されている一昔前のアクション映画を食い入るように観ながら探偵さんが答える。

「いや、お手紙じゃなくてお客様です。依頼者の方がお見えになりましたよー」

「あっ、危ない! おぉっ、良く避けた! 良いぞ! んー……書留なら紗季ちゃんが代わりにサインしておいてくれ」

「…………」

元々不機嫌そうだった女性の表情がさらに険しくなる。

「依頼者が来てますってば、探偵さん! 呑気に映画なんて観てる場合じゃないですよ!!」

「へっ!? 依頼者!? 何でもっと早く言ってくれないんだ!?」

「さっきから何回も言ってるじゃないですか!! とにかく、ちゃんとお仕事してください!」

慌てふためく二人のやり取りを切り裂くように、女性が低く冷たい声で告げる。

「初めまして、鑑さん。私の依頼、受けてくれるかしら?」

「あは、ははは……」

「…………この人はホントにもう……」

外の熱気が嘘のように冷たい空気が紗季達の周りには流れていた。

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正しい選択

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蛍光灯の明かりに照らされた廊下を施設の担当者に案内されて、右へ左へと進んで行く。
5分ほど歩き、ある部屋の前に着いたところで担当者から軽い説明を受ける。

「――では、面会時間は30分までとなっておりますので」

担当者に短く礼を述べて、部屋の中に入る。

通された部屋はさほど広い部屋ではなく、右手の壁に大きめの窓がひとつだけ作られている。
部屋の中のものは少なく、部屋の隅に小さめのラックがひとつ、そして部屋の中央にデスクがあるだけだ。
そのデスクの奥側、入り口から入ってきた私に向かい合う形で彼は座っていた。

「……よう」

少しの間をおいて挨拶を交わし、彼の真向かいの席に腰を下ろす。
彼は両手両足を枷で繋がれた状態で自由に身動きが取れないようにされている。
部屋には私と彼以外の人間は居ないが、人の気配を感じるような気がする。
おそらく、部屋の窓がマジックミラーになっているのだろう。今回の一件について詳細を知りたい者達が我々の会話を聞こうとしている可能性は高い。
どこにあるかは分からないが、映像と音声を記録する端末も壁のどこかに埋め込まれているはずだ。
まぁ、聞かれて困るような事を話すわけではないから、特に問題は無い。

「少しは頭の中の整理はついてるか? できるなら、あの時のことを聞かせて欲しい……」

わずかな沈黙の後、彼は静かに口を開いた。

「良いよ。自分でも意外なほど落ち着いてるし、あの時のことは俺もお前には聞いて欲しいと思ってた」

二人が発する音以外の無い静寂に満ちた空間で、彼はぽつり、ぽつりと私に語り始めた。

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真夜中の往診

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「来週の分まで出しておくので、特に症状に変化が無ければまた来て下さい」

医療器具や様々な薬品の入っている薬瓶が整然と並べられたデスクの椅子に腰を掛けた男性が、手元のカルテにペンを走らせながら目の前に座る女性に落ち着いた声で告げる。
男性の年の頃は二十代の後半くらいだろうか。長身痩躯で銀縁の眼鏡をかけている。羽織った白衣も様になっていて、いかにも“医者”といった感じだ。

橙色のランプの灯りが柔らかく室内を照らしている。
どうやら、ここは大きな病院ではなく彼が個人で開業している医院のようだ。
患者の女性に少し待っているように言うと、奥に続いた部屋の戸棚から薬包をいくつか袋に入れて、彼は彼女にそれを手渡した。

「本当に助かるわ。ここは大きな街だけどウォルター先生のような腕の良い町医者は居なくて……。
それにこの地区では大きな病院で診てもらうほどのお金を持っている人も居ないから……」

これからもこの地区の人達のこと、よろしくお願いします――そう言って女性は一礼すると、彼の病院を足早に去っていく。彼は少しずつ小さくなっていく背中に「お大事に」と短く呟くと空を見上げた。空は厚く雲がかかって灰色に染まり、黄昏時の街を暗く覆い隠している。

「さて……今日の患者さんは彼女で最後のはずだけど? 急患かな?」

医院の入口の脇にある小さな茂みに人影がひとつ。
入口の扉にはランプが掛かっているが、茂みの方までは明かりが届かず、彼の立っている場所からでははっきりと姿が確認できない。
彼が声をかけると、隠れるように待っていた人影がこちらに歩み寄ってきた。

「噂通りの良い腕をしていますね。まさに医者の鑑です」

声の主は若い女性のようだが、修道士のようなローブを身に纏って、フードを目深に被っているせいか表情はいまいち伺えない。

「それで、私に何か用でしょうか? 見たところ、診療目的でもなさそうですが……?」

「そうでしたね、早速本題に入りましょう。実は先生に“看て頂きたいお客さん”が居ましてね?」

ローブの女性の含みを持たせるような言い回しの言葉を聞くと、彼の瞳が一瞬スッと鋭くなった。

「ふむ……では、詳しい話を伺いましょうか。中へどうぞ」

女性を中に招き入れると、彼は入口のランプの灯りを消して扉にしっかりと鍵を掛けた。

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種と枝葉

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集落から少し外れた場所にある山道の途中の大きな楓の木に槍を立て掛け、その場に腰を下ろす。
私の一族にとって各々の持つ槍は命というか、自らの存在の証明というか、そういったものだから大切に扱うようにと言われてるので、こんな風に扱うと他の仲間から怒られそうだけど、私にはその感覚がいまいち理解できない。
でもまぁ、ここはめったに誰かが来るような場所でもないし、たぶん大丈夫だろう。

木の根元に腰を落ち着けた私は左から右へと目線を運んでいく。
この場所は少し視界の開けた小さな丘のような場所になっていて、私の暮らしている集落も良く見えるお気に入りの場所だ。特別に思い入れのある場所というわけでもないけれど、仕事の合間とか集落に帰る前とか、気がつけば足を運んでいるような気がする。

眼下に望む集落では私の仲間たちがあれやこれやと忙しなく動いてるのが遠目に見える。

一度立ち上がって伸びをした後、私は木陰の下の草の生えた所に寝転がった。
背中に当たる草の柔らかい感触が心地よい。
空は雲一つ見えず、木々の葉の間からゆらゆらと除く木漏れ日が眩しかった。

どのくらいの時間そうしていただろうか?
風の音にざわめく木々の葉の音を聴きながら目を瞑っていると、先ほど槍を立て掛けた木よりも少し離れた辺りから、ふいに声を掛けられた。

「やっぱり、ここに居たのか。また考えごと?」

「…………」

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紗季のほのぼの事務所ライフ ~キャラ創りコラム:状況描写、文章表現とキャラクターの書き分け方法~

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茜色の空が広がり、日中の肌を刺すような暑さはいくらか弱まって、商店街の建物の間には僅かに風も吹き抜けている。
いつもより少し早めに仕事を切り上げて、鑑と紗季は二人で探偵事務所の入っている雑居ビルの裏路地を歩いて行く。

「うーん……実に疲れる人だった! 仕事が増えるのは有り難いが、今後もあんな依頼ばっかりだと参ってしまうなぁ」

「確かに、探偵さんが好まなそうな地味な依頼ですけど、そういうことの積み重ねが大事だと思いますよ?」

「分かってはいるつもりなんだが、何というか、こう、やはり僕のイメージと合わないというか……」

「ふふふ……探偵さんの理想のイメージばっかりの依頼だったら、きっと大変な事になってますよ?」

今日受けた依頼のことを話しながら、建物の間を右へ左へ進んで行く。
少し開けた通りに出た二人は、赤いレンガ造りの二階建ての建物のところで歩みを止め、二人並んでその建物を見上げる。
一階と二階に数カ所ある窓には小さなベランダがついていて、プランターに植えられた様々な草花が顔を覗かせている。
余計な枝葉が無く、枯れているものも無い事から、世話が良く行き届いてるのが分かる。
入口の脇には建物の雰囲気に合わせるように、木製のベンチやゆりかごブランコが置いてある。
屋根のてっぺんでは風見鶏が夕暮れの風を受けて、のんびりした速さでくるくる回っていた。

「いつ見てもお洒落なお店ですよね。ここの商店街ってウチの事務所があるビルみたいな建物が多いから、
こういう雰囲気のお店ってかなり貴重だと思いませんか?」

「うん。僕的にはちょっとミステリアスな雰囲気がするのが何ともたまらんね」

二人の目の前にあるこの建物は、彼らの探偵事務所から5分ほどのところにあるアンティーク雑貨を扱うお店、『光風堂』だ。
去年の秋、商店街でハロウィン・パーティーのイベントが催された時に鑑達は臨時スタッフとしてこのお店の手伝いをした。その時の作業やイベント当日のあれこれを通してお店の人達とも親しくなり、今日のようにたまに二人で尋ねることも増えた。

二人が少しの間、お店の建物をぼーっと見上げていると、入口の木目調の扉がゆっくりと開き、中から荷物を抱えた女性が現れた。

「いらっしゃいませー……あらあら、可愛い常連さんのご来店ね~」

「あっ、佳織さん、こんばんはー」

「こんばんは、ご無沙汰してます」

二人一緒にぺこりと一礼、挨拶をする。この女性は『光風堂』の店主、仲村隆一の妻の佳織だ。
仲村夫妻とは去年の秋のイベントだけでなく、冬に鑑達がある依頼者からのお礼で招待された別荘や、春のお花見の場面でも一緒になっていて、すっかり顔なじみになっている。

「佳織さん、この前来た時にわたしが気になってたチョーカー、まだ残ってます?」

「大丈夫よ~。アレとセットのデザインになったリボンもあるんだけど、ちょっと見てみる?
紗季ちゃんなら綺麗なロングヘアだからきっと似合うんじゃないかと思って」

「ホントですか! スゴく見たいです! 是非っ!」

「僕はその間に事務所のインテリアに良さそうな物を探してみようかな。オシャレな雰囲気は探偵のステータスにも関わるしね」

「それじゃあ二人とも中へどうぞ。主人も鑑さんと久しぶりにお話したがっていましたし、良ければ買い物の後にお茶でも召し上がっていって下さいな」

佳織が二人を店内に招き入れる。

「それでは、お言葉に甘えて――」

 

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紗季のほのぼの事務所ライフ ~キャラ創りコラム:モデルを設定したキャラづくりとバリエーションのあれこれ~

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都市部から少し離れたところに位置する商店街。そこから歩いて15分ほどの場所に地域の人々が利用する市民公園がある。
園内に立ち並ぶ木々も鮮やかな緑へとすっかり衣替えを終えて、これからやって来る夏の季節への準備を済ませている。
公園を利用する人達のために綺麗に整備された歩道を行き交う人々も、公園の草花に合わせるように夏の装いへと変わっていた。

「……この街に拠点を構えて結構経つけど、ここは変わらないな」

探偵事務所がある商店街はこの地域では特に人の集まる地域なので、人や物の出入りも激しく、ひとたび外に出ると慌ただしい空気が毎日のように漂っている。

『人の集まるところに事件あり。それを鮮やかに解決する事が探偵の本分』――そんな言葉と期待を胸に手頃な物件を探して意気込んでいた頃が何だか懐かしい。
新たな環境での滑り出しは決して順調とは言えなかった。依頼の全然入らない月もあったし、地味で大変な割に
報酬の少ない依頼を受けた事も何度かあった。
そんな中で色々な“ちょっと変わった事件”を通して少しづつ知名度も上がったが、正直言って現在も安定しているとは言えないだろう。
ただ、それでも今も事件に対する姿勢はあの頃と変わってはいない。
これからも大変な事が数多く待ち受けているだろうけど、この気持ちが無くならない限り、きっと乗り越えられるはず。
歩道の脇に置かれた木製のベンチに腰掛けて、鑑は道行く人を眺めながらぼんやりとそんな事を考えていた。

公園のベンチに腰を下ろしてのんびりしてから15分ほど、シャツのポケットに入れていた携帯が震える。

「紗季ちゃんからか。そろそろ事務所に行かないとな…………おや?」

『にゃお~』

気づくと足元に子猫が1匹、擦り寄ってきていた。
しゃがんで頭を撫でてみると、子猫は喉を鳴らしながら気持ち良さそうに目を細めた。

「君も休憩タイムだったのかな? 悪いが僕はこれから仕事でね。お先に失礼させてもらうよ。
君の家族にもよろしく言っておいてくれ」

冗談混じりでそんな風に言ってポンポンと子猫の頭を軽く叩くと、鑑は立ち上がってその場を後にする。

しかし、歩き始めてすぐに気配を感じて立ち止まり、振り返る。
少し後ろの方からさっきの子猫がぎこちない足取りでこちらに向かって来ている。

「…………」

前に向き直り、再びゆっくりと歩を進める。
5メートルほど進んでから再び立ち止まり、複雑な表情を浮かべながら振り返る。
やっぱりか……、という表情の彼の視線は自然と自らの足元へと向いていた。

「参ったな…………もしかして君、帰るところが無いのか?」

『にゃ?』

小首を傾げて子猫が鑑を大きな瞳で見つめる。

「どうやら当たり、か。うーん、どうしたもんか……」

 

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紗季のほのぼの事務所ライフ ~キャラ創りコラム:得意分野を生かしたキャラ創りとステレオタイプの注意点!~

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昨晩から降り続いていた雨は朝方に止み、地面に出来た水溜まりが雲の広がるきれいな青空を映し出している。
事務所の窓から、歩道の脇に植えられた街路樹の葉にわずかに残った雨粒が陽の光を受けてキラキラと輝いているのが見える。
外から感じられる暖かな春の陽気に誘われるように窓を開けると、紗季はゆっくりと伸びをしながら息を吸い込んだ。

「う~ん、暖かくて気持ちいい。春のぽかぽか陽気は良いですね~」

外の景色を見ながらしみじみとそう言った紗季に、ソファーに寝転がっている影が同じくしみじみとした調子で答える。

「そうだねぇ。しかし、こう穏やかだと何も事件が起きなさそうで、僕としてはちょっと退屈かな?」

「ふふふ、探偵さんが言うと何だか妙にしっくり来ますね。でも、平和が一番ですよ、やっぱり」

窓の外からは通りを行き交う車の音や人々の話し声が聞こえてくる。
穏やかな天気のせいか、道行く人達の雰囲気もどことなく平和な感じがするから不思議だ。

「あっ、春といえば花見の時期もだんだん近づいてきてるんですね。今年はみんなでお花見行けるかな?」

「そういえば、紗季ちゃんは去年そんな事も話してたね。近々、ハロウィン・パーティーの時に御一緒した商店街のみんなにも聞いてみようか?」

「良いですね、誘っちゃいましょう♪ 遥にはわたしから声掛けておきます」

今から楽しみですね、などと話していると、鑑が再びしみじみとした表情になる。そして、何か思いついたかのように――

「花見でふと思い出したんだけどさ、『狂い咲きの桜の下には死体が埋まってる』って言うよね?
狂い咲きじゃなくても死体が埋まってくれてればいいのに。そうすればきっと僕の元にも事件解決の依頼が……」

紗季が窓枠にガクッと肘をついた。

「ぽかぽか陽気の平和な日になんてこと言うんですか! せっかくこのコラムにもピッタリのほのぼのした空気だったのに!」

「あぁ、すまない。僕に流れる探偵の血が平和な空気をどうも好まなくてね…………ん? 『このコラム』って一体どういう――」

「あー! 何でもないです! それよりもそろそろお茶の時間にしませんか!? 探偵さんも疲れてきたでしょう!」

鑑の疑問を遮るように紗季が慌てた様子で提案する。

「えっ……? え~と、僕は特に何もしてなかったし、まだ休憩は取らなくても――」

「いいえ! 自分でも気付かないだけで、とっても、とっても、疲れてるんですよ! 探偵さん!」

「あっ……そ、そうなのか?……わかったよ、休憩にしようか」

普段の雰囲気とは全く異なる紗季の迫力に圧倒され、困惑気味の鑑は休憩に入ることを承諾する。

「探偵さんは飲み物何にします? いつも通りコーヒーで良いですか? 良いですよねっ!」

一方的に会話を進めると、紗季は鑑の返事も聞かない内に足早にキッチンの奥に引っ込んでしまった。

 

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紗季のほのぼの事務所ライフ ~キャラ創りコラム:デフォルメキャラ! あり得る? あり得ない?~

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春の訪れまではまだまだ日が遠く、街中を通り抜ける風が道を急ぐ人々に鋭く吹きつけている。
新たな年が明けてからしばらく経ち、世の中は普段と同じリズムを再び刻み始める。
人々が皆、忙しなく動き始めるのは屋内の場面でも変わらず、相沢慧悟が配属されている署内も無論、例外ではなかった。

「ようやく一休み、か……」

署内の片隅に設けられた小さな喫煙スペース内のベンチに座り、コートの内ポケットから残り少なくなったタバコを取り出すと、手触りを確かめるようにしてから軽く咥えて火を点ける。

「ふぅー……」

他に誰も居ない喫煙スペースのガラス越しに右へ左へ行き来する職員達の様子をぼんやりと眺めていると、
軽いノックの後に入口のドアが開いた。

「お疲れ様でーす……あれ、相沢先輩も休憩ですか?」

「ちょうど一山片付いたところだ」

冷たくなった手を擦りながら部屋に入ってきたのは相沢と同じ署に勤務する鳥野康平巡査だった。
年は相沢よりもひと回りほど下で「駆け出しの若き警察官」といった雰囲気が漂っている。
現在は所属している部署が違うので相沢の直属の部下ではないが、鳥野がこの署に初めて配属される事となった時、彼の指導係だったのが相沢だった。
相沢からすると目が離せない弟分のような男で、互いの部署が別々になった今でも相沢が彼に抱くイメージは変わっていない。

「相沢先輩はエスプレッソですよね? はい、どうぞ」

鳥野が自販機で二人分の缶コーヒーを買って、相沢に一つを手渡す。

「おぅ、悪いな」

喫煙所で何度もあったやり取りを以前と変わらぬ調子でなぞるように済ませると、鳥野は相沢の向かいのベンチに腰を下ろした。

「はぁ……何か面白い事件とかないですかねぇ? こう、ドラマとかでよくあるような手に汗握る感じの」

「おいおい、お前なぁ……事件なんて無い方が良いに決まってるだろ? それが変わった事件ならなおさらだ」

「でも、そんなんじゃつまんないっすよ。毎日ちょっとした事件や事故、交通違反なんかの処理ばっかり……」

「気持ちは分からんでもないが、普段のそういうのが一番大事だったりするんだよ。しかしまぁ、それだとお前も面白くないだろうから、今日は面白い事件や犯人の事について少し話をしてやるよ。色んな事例についての考察自体は悪い事じゃないしな」

備え付けの灰皿で短くなってきたタバコの灰を落とすと、缶コーヒーの口を開ける小気味良い音が二つ、喫煙所の中に響いた。

 

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俺より強いやつが待つ場所へ。

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みなさん、ご無沙汰しておりました!

冬も深まり、お外は真っ白ですっかり寒くなりましたね~

最近、反応薄めで存在感が怪しい雰囲気になっていますが、大丈夫です、生きてます。ナリマサです(・ω・)

先日、僕らの愛すべき大型マスコットキャラクター・土手沈くんから粗品が届いたので、今回はその模様(?)を伝えていきたいと思います~

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紗季のほのぼの事務所ライフ ~キャラ創りコラム:現代が舞台の時はどうする?~

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降り続く雪が道行く人々の雑踏を吸い込んでいく。
この一年もいよいよ終わりに差し掛かり、通りに立ち並ぶ店はどこも年末年始に向けていつも以上の活気に満ちている。
そんな繁華街の中のビル群に紛れるように建つ、小さなオフィスビルの一室にて――

「……9月分の書類はこれで全部、と。よし、次は10月……」

「『S市中央区での調査報告について、物証(2)』、画像データは――」

静かな事務所の中、探偵さんがパラパラと書類をめくってファイルを整理する音と、わたしがキーボードをタイプする音が響く。
鑑探偵事務所はただいま書類及びデータ整理の真っ只中である。
ここでアルバイトを始めて結構な月日が流れたけど、年末にこれだけの書類を整理することになるとは正直ちょっと想像できなかった。
春先の頃は事務所のデスクで鳴らない電話をボーっと眺める日も多くて、この事務所の今後が非常に心配される感じだったのになぁ。
春の『篠崎邸の遺産探し』の一件に始まり、そこから少しずつではあるけど依頼が増えてきて、夏にあった『謎の連続強盗事件』への捜査協力など
大きな事件に当たった影響はなんだかんだで大きかったみたいだ。

「紗季ちゃん、そっちに10月20日に受けた素行調査のファイルはあるかい?」

「ちょっと待って下さいね……。えーと、10月20日の分は…………あっ、ありましたよ」

はい、どうぞ、と探偵さんにファイルを渡してわたしも再び手元の作業に戻る。
最近は大きな事件にも特に当たっていないけど、こうしてファイルの整理をしていると細かい依頼も含めればそれなりの数の依頼をこなしてきたことが分かる。
まだまだ、安定した軌道とは言えないのかもしれない。それでも着実に前進してることが実感できるのはやっぱり嬉しいものだ。
ちょっと変わった人だけど、探偵さんもそれに関してはきっと同じように感じてると思う。

「10月分、終了…………ふぅ、肩が凝ってきたな。作業はまだまだ掛かりそうだし、ちょっと休憩しようか?」

「はい、わたしもちょっと目がしょぼしょぼしてきました……」

瞼の上を手で軽く揉みほぐすようにして答える。

「そういえば、今日は駅前のお菓子屋さんでおいしいワッフル買ってきてるんですよ」

「おっ、それは楽しみだね。疲れた時にはやはり甘いものが良い」

探偵さんが来客用のソファーの前のテーブルに乱雑に積み重ねられた書類を片付け始める。

「わたしは飲み物用意してきますね。探偵さんはコーヒーと紅茶、どっちにします? 今日のわたしのオススメは紅茶ですけど」

「ふむ。なら、紗季ちゃんのオススメでお願いするよ」

鑑の返事を聞き終えると、紗季はキッチンの棚からアールグレイの茶葉を取り出し、慣れた手つきで紅茶を淹れる準備を始めた――

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