電車のドアが開くのを、俺は背中で聞いていた。
快速の電車を先に行かせる為に、帰りに乗る電車は1分ちょっと止まる。
俺はきまって3両目の左側のドアの前に立って、目の前の反対方向へ行く、同じように出発を待つ少し空席が目立つ電車を眺めるのが日常だった。
そんな風にぼーっと眺めていたある日、俺は一人の女の子に目を奪われた。
少し眠たげな目をした彼女は、俺と同じように手すりを掴んで立っていた。
なんとなく変わった感じだけど可愛いな。
そう思ってしげしげと眺めていると、向こうも何か感じたのだろう。
ふいに顔を上げた彼女と目が合ってしまった。
――瞬間、恋に落ちた。
それから俺はその1分ちょっとが毎日の楽しみだった。
相変わらず彼女はぼーっとしているが、さすがに毎日のように居る俺のことを覚えてくれたのか、軽く会釈くらいはしてくれるようになった。
でもそんな少しの前進が俺にはもどかしかった。
なんとかして、彼女に想いを伝えることは出来ないだろうか。
はぁ、と溜息をつく。俺の気持ちを映す様に、窓が少し曇る。
もやもやした気持ちを描くように、曇った窓に絵を描いてみる。
――閃いた。コレは凄くロマンチックだと思った。
次の日。俺を見つけた彼女が会釈をしたそのとき、なんとか俺を見続けてもらえるように大きく手を振って、自分の手前の窓を指差した。彼女は怪訝な顔をしたが、とりあえず第一ステップはクリアしたようだった。
あとはもう勢いに任せよう。はぁぁ、と肺から、腹から息を吐き出す。大きく曇る窓。
そこに俺は、ありったけの思いを込めて『スキ』と大きく書いた。
大胆なことをしたという緊張感と、肝心なその返答を思って心が、体が熱い。
叫びたくなるような気持ちを押し殺して、胸を張って彼女を見た。
そこには不思議そうに、左に右に首を傾げる彼女の姿があった。
もしかして目が悪いのだろうか。ならばと思い、左右のドアそれぞれの窓に一文字ずつ大きく『ス』『キ』と書いた。
それでも彼女は分からないようで、目を細めたり、手をあごに当てたりして、真剣に考えているようだった。
発車のアナウンスが流れた。
彼女は申し訳なさそうに手を合わせたジェスチャーをすると、反対側の、俺の知らない所へ去って行った。
俺の一世一代のロマンチックな告白は無残にも失敗したのだった。
彼女の目が悪かったのだろうか。いやそれにしては見えているようだったし、何より”理解できない”というような顔をしていたのはなぜだろうか。
電車を降りてからもずっと考えた。考えて、考え抜いて、自分で書いてみて分かった。
その日は布団にくるまって泣いた。
恥ずかしかったので次の日から俺は5両目の右側に乗るようにした。
<おわり>
……これ『ささめき』シリーズとしてカウントするにはちょっとアホすぎますかね?
単に思いついたネタをやりたかっただけなので、文章の完成度は度外視。電車の設定も適当です。
ただネタとしては今後も使えそうなので、もっときっちりやり遂げるのもいいかも?
ん? ドユコトカナ…
ネタは分からないけど雰囲気は好きです
日常の中の非日常である恋愛というものが引き立って見える感じですね
ささめきは起承転というキーワードがあるみたいなんでこういう結推しはまたちょっと違うのかも…?
オチありきで書いたからむしろそこまでがどうも不安定なんだけどねw
ネタは下でアロルノさんが言ってるけど鏡文字になるから分からない、ってこと。
もうちょっと分かりやすい表現が出来ればよかったか…
俺も一瞬「?」てなりましたが、つまりはタイトルの通りですねw
反対の電車なんだから主人公気付けwww鏡文字をだなwwwwww
これも「ささめき」の形だと思いますよ、可愛らしくて素敵です!
何より、自分の絵柄ですんなり情景が浮かびました。
>毛糸
「起承転」はあるけど別にこだわりでもないから、どうなんだろう?
たまにはこういうクスリとするオチがあってもテンポ的にいいかも知れない( ^ω^)
分かってくれて何より!今回のタイトルは上手く付けたな!と自画自賛しておりますw
漫画の方がもっとポップなノリで描けるし、説明も冗長的にならないからそっちのが向いてるかも。もしまとめる時にネタがないならぜひ描いていただきたいところ…!