天使のような

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「あ、おはようございます」
「あら~、おはようございますぅ、暑いですねぇ」

出勤前の憂鬱な時間。ドアを開けるとお隣さんも出て来た。軽い挨拶をした後、同じタイミングで駐車場に行かないようにわざと持ち物確認をして時間を稼いで、彼女の後ろ姿を見送る。

茶色のふわっとしたセミロングのウェーブがかかった髪型と、彼女自身のほんわかした雰囲気が合っていて、とても愛らしい人だと思う。それにスタイルもいい。こんな人が隣に住んでるのかと思うとちょっと嬉しくなってしまうのが男の性というものだろうか。

特に彼女とどうこうしたいということはないが(それはもちろん下世話な願望はある)、ある日、ほんの出来心で出勤する彼女に付いて行ってみることにした。


車は中心街へ向かっていた。OLなのだろうか。彼女みたいな人が職場に居たら、休憩時間にドラマの話とかおしゃれなカフェとか、そんな話をして、あわよくばデートなんて……そんなことを考えていると、彼女の車が月極駐車場に止まった。

そこは街の中でも有名な歓楽街だった。いわゆる風俗店が連なる、そういう街。車から出て来た彼女はいつもと変わらぬ優しい顔で、ビルの中へと消えていった。

そこで何をしているのか確かめる気は起きなかったが、ビルを横切った時、表に掲げられた看板に美しく並ぶ女性たちの中に、彼女に似た人が見えたような気がした。

『一人を殺せば犯罪者だが、百万人を殺せば英雄だ』

誰かのそんな言葉を思い出す。じゃあ彼女は、彼女のような人たちは――千人の男と交わった女性は天使にでもなるのだろうか。誰にでも等しく愛を注ぐ、天使に。僕のような人間にも……

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「どうも、こんにちわ~」
「あぁ、こんにちわ。今日はよろしくお願いします」
「?? はい~、どうぞよろしくお願いしますね~?」

少し不思議な顔をして、歩いて行く彼女を、いつもと同じように見送る。その背中には翼がうっすら見えた。

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文中の天使のくだりは面影ラッキーホールの『ピロートークタガログ語』の中に出てくる歌詞です。気になる方はぜひ聞いてみてください。深い曲ですよー

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