――とある鎮守府、艦隊司令官室
提督「お疲れ様、長月」
長月「ふーっ…… 久々に疲れたよ。またすぐ出撃か?」
今まさに帰投したばかりといった様相の長月が部屋に入ってくると、提督は深海棲艦の勢力図がびっしりと書き込まれたボードから視線を外す。一直線にこたつへと向かった長月にお茶を入れるためだ。
長月「あ、私が入れるよ、司令官」
提督「いいのいいの。一段落ついてちょうど休もうと思ってたところだし」
長月「そうではなくてだな……司令官も疲れているだろう?」
そう言うと長月は立ち上がり、強引に提督から急須を奪った。
長月「隈が酷いぞ。少し休め」
提督「大丈夫だクマー! 流石に前線で戦ってる皆とは比べ物にならないクマ」
今度は提督が長月から急須を奪い返す。
長月「艦娘は疲れたら入渠できるし代わりもいる。だが司令官に倒れられたらどうしようもないんだ。分かったら休め。私たちのためだ」
そう強く言われて提督はしぶしぶといった表情でこたつに入った。
長月がお茶をいれる音だけがしばし部屋に響く――
準備が終わって長月がお茶を運んでくると、短い沈黙を破って提督が再び口を開いた。
提督「……俺は艦娘に代わりがいるなんて思ってない。俺にとっては皆、かけがえのない存在だよ」
長月「……私たちは兵器だ。私の代わりだっている。だがそう言ってもらえると救われる気がするよ、皆もきっとそうだ」
長月が優しく微笑み、それを見た提督の表情も和らぐ。
こたつに入って少し落ち着くと、思い出したように長月が提督へ質問した。
長月「そういえば一段落ついたとはどういう意味だ? またすぐ出撃はしないのか?」
提督「ああ、ちょうど進行目標の半分ほど達成したし、今回の深海棲艦は勢力を押し返してくる気配がないんだ。ここで一度休息を入れることにしたよ。何より資源がない」
長月「ん…? うわ! 酷いなっ、燃料がもう空じゃないか」
長月は出撃に次ぐ出撃でしばらく目を通していなかった報告書を見て驚きの声をあげた。
提督「そうなんだよ。鋼材も底をつきかけてるし、今は資源を溜めるのが最優先だ」
長月「なるほど……それでは私も休ませてもらおう。正直ヘトヘトだったんだ」
事情を知って逆にほっとしたように笑いながら長月は言った。
提督も言葉には出さなかったが長月の疲労は分かっていたので、ここで休息を挟めるのは一石二鳥なのであった。
提督「もちろん。だけどその前にその……報告書作るの手伝っていただいてもよろしいでしょうか…?」
長月「ま、だろうと思ったよ。私がいないと司令官はホントに事務処理がダメだからな。ほら、見せてみろ」
提督「ありがとう…! 恩に着ます…!」
・E-1 サメワニ沖海戦
長月「特に苦労することもない海域だったな。索敵が低いと敵艦隊を見つけられないというのが今回の大規模作戦の肝だな」
提督「そうだ。最初は潜水艦娘たちに偵察してきてもらったんだが、敵の主力艦隊は発見できなかったよ。ここは軽空母メインの編成で十分に攻略できたな」
長月「重雷装艦も有効だったし普段と変わらない感覚で攻略できたのはありがたい」
・E-2 ズンダ海峡を超えて
提督「ここで予想外に資源を使ってしまったのが痛かったな。何せ主力艦隊へ到達する前に夜を越えないといけない。昼にも夜にも対応できる艦隊っていうのは難しいものだ……」
長月「潜水艦娘を一人いれたいところだが、昼戦でフラ軽フラ駆がいる上に輪陣形に複縦陣だからなかなかな安定しない。探照灯は必須かも知れないな」
提督「それとこのあたりで着弾観測射撃の運用を本格的に始めたな。艦隊全体の索敵能力と制空権が発動率に関連してくる。観測機の数はあまり関係ないようだから注意が必要…っと」
長月「観測機が多いと開幕の航空戦で役に立つみたいだ。航空戦艦や航空巡洋艦ならその両立も可能というわけだな」
提督「ただ未知の要素が大きいからまだ何とも言えないな。とりあえず効果の大きい着弾観測射撃だけはしっかりと運用していこう」
・E-3 強襲!ポートワイン破壊作戦
提督「ここはルートの選択が重要になる海域だった。それが分かるまでに資源を結構消費してしまったな」
長月「たしか空母の数だったのか? 詳しいことは分からないが空母三隻にすると南ルート、二隻だと東ルートだったな」
提督「東ルートの一戦目の潜水艦が嫌で、南にいくと今度は夜戦がある。夜戦を探照灯で越えようと考えたが結局微妙で、どちらのルートでもリスクがあるなら一戦目にリスクのある東ルートの方が良かったんだな。早めに撤退すれば資源の消費も少なくてすむ」
・E-4 前路対潜掃蕩戦
長月「ここは私も前線に出たぞ。3-2や1-5を思い出したよ」
提督「ああ。駆逐艦五隻でルートが固定できるみたいだったな。軽巡洋艦が混ざっても大丈夫だという報告もある。旗艦は戦艦にして道中で暴れてもらうか、航空戦艦にしてボス潜水艦を落とすために対潜装備にするのが良いな」
長月「ウチは長門に旗艦を務めてもらったが、やけにテンションが高かったのはどうしてだったんだろうな?」
提督(……ちょっと分かる気がする)
長月「そして潜水艦隊に挟まって通常艦隊がいたのがキツかった……。何度大破撤退したか」
提督「そうだな。ただボス戦での被弾が少ないこともあってダメコンがかなり有効だったし、最終的に消費した資源はかなり少なかった。他の提督もどうにかここまではクリアしようとがんばっているみたいだ」
・E-5 ビーコック島攻略作戦
提督「そして現在攻略中のここだ。過去に例がないほど強力な敵戦力がそろっている海域だ」
長月「私もE-4から連続で今度は決戦支援として出撃したからな、恐さは分かっている……」
提督「そうだ、ただ敵主力にたどり着くまでの狭い海路に戦艦棲姫がな……どうしてもそこを突破しないといけないんだがコレがまた恐ろしい」
長月「そうだったのか。やけに道中撤退の連絡が多いと思ったらそういう理由か」
提督「そういうことだ。あそこを越えればどうにかなるんだ。ちなみにこの海域は全力で行った方がいい。具体的には戦艦x3、正規空母x3とかだな。空母は烈風メインでダメコン詰み、開幕航空戦は捨てて制空権を取り、戦艦に観測機を載せて着弾予想射撃をぶち込む。更に決戦支援も送って主力を全力で叩くのがベストだと思う。空母は常に戦意高揚にするけど戦艦はそのままだな。流石に資源がもたない」
長月「悪夢のような殴り合いだな……」
提督「一度の出撃で燃料を1000使うからな。だんだん変なハイになっていったよ」
長月「浪費グセはつけるんじゃないぞ? 兵站管理が仕事なんだし、将来困るぞ」
提督「その時は長月に管理してもらうからいいもん」
長月「………保証はできん」
ぶっきらぼうな物言いだったが、嫌ではないという表情がこぼれてしまうのを隠すように長月はうつむいて作業を続けた。
過酷な戦闘が続く中でも、ほんのひと時穏やかな時間が訪れる。今まで二人に訪れた穏やかな時間は全て、この時と同じ儚いものである。しかしそんなことはその中で実際に生きる者達には関係がないのだった。少なくとも、今はまだ――
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