――とある海軍軍令部、会議室
提督「――という訳で、艦娘の戸籍への復帰・婚姻制度の制定を提言いたします」
長官「……提督君、私は君達や彼女らの働きには十分に感謝しているし評価しているつもりだ。待遇も考えうる最高のものを用意させてもらった。これは単に組織上の意味だけではなく、私達の気持ちも含まれていると思って欲しい。君はまだそれ以上を望むと言うのかね?」
普段の司令官室とは比べ物にならない程大きく豪華な部屋。中央には巨大な机を囲むように数十名の軍人が難しい顔をつき合わせている。
今は先ほどまでとは少し変わって、難しい顔の中にも目をそらす者、熱の入った視線の者などが混ざり始めた。上層部である部屋の奥に陣取った者達は、困った表情や呆れた表情を浮かべるものが大半だ。
提督「気持ちとは何でしょうか? 上官殿は艦娘達を戦わせることに後悔の念を抱いているということですか?」
長官「後悔などない。反省によって得られる教訓のない事柄にいつまでも囚われるほど私も馬鹿ではないよ。しかしね提督君、それについて後ろめたさを感じるのは人間として当然のことではないかね?」
提督「はい。私も同様に感じております。しかし上官殿、私は艦娘達を身近で見続けて分かったことがあります。彼女らは『兵器』です。『兵器の役割を押し付けられた人間』などではありません」
長官「…………」
上層部A「その通りだ。だからそもそもアレらにこのような高待遇など必要無いと常々……」
提督「しかし同時に『人間』でもあります」
上層部A「……フン」
長官「続けたまえ」
提督「我々の感じる後ろめたさなど、彼女らにとっては『兵器』として不要なもの、そして『人間』として既に乗り越えたものです。確かにそのような理由による高待遇など不要と、私も同感いたします」
長官「しかしそれでは君の提言とは矛盾するようだ。結論を言いたまえ」
中央に座る長官の視線がいっそう鋭くなる。左右に広がる上層部の面々も、既に一様に真剣な表情を浮かべていた。
提督「それでは結論から申しますと、彼女らに必要なのはその『兵器』としての戦果に合わせた正当な報酬としての待遇、そして『人間』としての正当な権利です。正当でないものは常に歪みを産み、物事を破綻させます。どうか御一考、お願い致します」
ざわ…… パチパチ……
提督が一礼して着席すると、にわかに会議室内がざわめき立った。数人、拍手をする者も見受けられる。
上層部A「アレらを人間として扱う必要はない! 付け上がるだけだ!」
上層部B「しかしあまりにも彼女らの権利を認めなければ反逆という恐れも……」
提督A「鈴谷とケッコンさせろや!」
上層部C「やはり婚姻だけは禁止すべきでは? 人間の正当な権利の中に――」
的外れな意見(など)が飛び交う。この場でまず議論すべきは『艦娘』という存在の認識だ。
彼女らは『兵器』か、『兵器の役割を持つ人間』か、『一般市民』か『軍人』か、それとも――
長官「静粛に」
ざわつく室内が一瞬で静まりかえる。それほどの声量ではなかったが、俺はただ『鋭い』と感じた。
長官「なるほど面白い提言だった。私も皆も、考える時間が必要なようだ。本日はこれにて解散とする」
金剛「終わったみたいですネー。お疲れ様デース!」
提督「おう、待たせたな」
会議室の外には数人の艦娘達が待機していた。他の鎮守府の秘書艦だろう艦娘達も会議室から出てきた提督達を労う。
曙「遅すぎっ! あんたが無能だからバカな話がさっさと終わんないのよ!」
いかつい顔の提督「ごめんよ曙~、帰ったら間宮呼ぶから機嫌なおしておくれよ^~」
……一部特殊な労いを行う艦娘もいるようだ(結構いた)
金剛「でも何でこんな大事な日に私が秘書艦なのかナー? ねーテートクー」
提督「金剛がウチで一番大人だからだよ」
金剛「うーんまぁネー。でも帰ったら大変かもヨ」
提督「それは勘弁なんだけどなぁ」
金剛「もー妬けちゃいますネ。……重婚も絶対通してくださいヨー?」
提督「ああ。分かってる」
―――――
夕方。とある鎮守府、の近海。船着場まであと少s
ザパッ! トンッ…
船が船着場に到着する前に、小柄な少女が海から大きく飛びあがり、提督の目の前に着地する。
長月「司令官、お か え り」
提督「お、おう」
長月「出発は今朝6時と聞いていたがなぁ?」
怖い。逃げたい。
提督「あれーおかしいなぁ。3時だって言ったと思うけど――」
長月「いや私はこの耳ではっきり聞いた。確かにあなたから聞いたぞ、司 令 官 殿 ?」
提督「そ、そっかーまぁ言った言わないは水掛け論になるし、この話はやめよう。ハイ!! やめやめ」
長月「そんなこと言うなよ司令官、私は水掛け論が大好きなんだ。いや、水掛けが大好きだな。水自体大好きと言っていい」
提督「…? あのー長月さん……」
長月「もちろん司令官も好きだろう?」
提督「あっ(察し)」
長月「ちょっとは頭冷やして来いこのばかぁあああ!」
ザッパーン!
……
―――――
提督「ヘックション! ていとく」
祥鳳「あ、貴方はもしや提督では?」
提督「しまった! バレたか!」
祥鳳「知ってますよ。もう……」
とある鎮守府医務室。海に落とされた提督はケラケラと笑うだけの金剛を尻目に泳いで上陸したのだった。
提督はなぜかきっちりと用意してあった服に着替え、祥鳳の指示ですぐに身体を温めた。
祥鳳「大丈夫みたいなので、風邪を引かないようにしてくださいね」
提督「ああ、ありがとう祥鳳。まさか海に落とされるとは……」
祥鳳「のろけ話は結構です。うふふっ」
笑いながら服を片付けてくれる祥鳳。いい娘や……
提督「しかし実際あそこまで怒るとは思ってなかった。一体どういうことなんだ」
祥鳳「え、本当に分かってなかったんですか?」
提督「え?」
祥鳳「はぁ……。この前のあれに決まってるじゃないですか」
提督「というと……これ?」
祥鳳「そうです。あとは本人から聞いてくださいね」
そういうと祥鳳は濡れた服を持って医務室から出て行ってしまった。
うーむ。
―――――
提督「……あのー、長月さん?」
長月「…………」
コトッ……
艦隊司令官室。提督の座るコタツに静かに湯のみが置かれる。
提督「あ、お茶ありがとうございます。……それでですね、ちょっと座りませんか…?」
長月「…………」
提督がうながすと長月はコタツの定位置にちょこんと座った。しかし身体はあさっての方向を向いている。
提督「長月、いったいどうしたんだ? 確かに今日は騙して悪かったけど、それだけじゃないよな? 何をそんなに怒ってるのか分からないんだ……。ごめんな、俺が無神経できっと何かしちゃったんだよな……」
長月「……なんで、今日……いや、やっぱりいい……」
提督「え? 今日金剛を連れて行ったのは何ていうか、何となくっていうか……」
長月「っ! 嫌だ! やめろ!」
ダッ… バタンッ!
長月はそう言うと突然走り出し、部屋を飛び出していった。
あっけに取られた提督はどうすることもできず、しばし開けっ放しになったドアを見つめていた。
提督「ハッ! 追いかけないと!」
―――――
提督「どこにもいない……」
鎮守府中探し回ったがどこにも長月の姿は見当たらなかった。太陽はとっくに沈んでいる。
提督「あいつら本気だすと40ノット近いからな……」
島風「ふぅ……あ、提督。今日も遅いですね! ちなみに私は最高速度40.9ノットですっごく速いんだよ?」
前方から島風が歩いてきた。いつも走り回っている島風にしては珍しい登場だ。
提督「ああ、島風か。すまんが長月を見なかったか?」
島風「あぁ、長月ちゃん? 夕方くらいに廊下を走ってたから、二回くらい追い抜いてあげました!」
提督(おぉ……知らないところで追い討ちを……)
「そ、それでどこに向かってた!?」
島風「うーんと……屋上でしたね」
提督「屋上はもう探したな……」
流石に移動してしまっていたか。
提督「しかし一応もう一度探してみるか。ありがとう島風!」
そう言って提督は屋上に向かって走り出した。
島風「ねぇ提督、長月ちゃん探してるの?」
提督「……ああ。ちょっと急ぐから俺の周りを回りながらついて来るのはやめてくれないか」
島風「ついさっき司令官室までかけっこしたからそこに居ると思いますよ?」
ピタッ…
提督「ありがとう島風、でもそれを早く行って欲しかったなぁ」
島風「ツイサキシレイカンシツマデカケコシタカラソコニイルトオモイマスヨ」
提督の周りを高速で回りながら島風はあまり早くない早口でそう言った。
島風「ちなみにまた私の勝ちだったよ!」
―――――
確かに良く見れば司令官室の電気がついている。焦っていて気づかなかった。
カチャ…
提督「よぉ、長月」
長月「…………」
長月は部屋の隅で膝を抱えて丸くなっていた。部屋は明るかったがどんよりとした暗いオーラが放たれている。
長月「ふふっ……どうせ私なんか旧式のオンボロさ……」
提督「長月……」
長月「これ以上強くもなれないし、提督に捨てられても当然だよな……ははは……」
提督「おい、何を言って――」
長月「ああ司令官、いたのか……すまなかったな、取り乱して。もう落ち着いたよ。ただ現実を受け入れられなかっただけ……もう、大丈夫だから、最後にもう一度だけ――」
ガバッ!
長月「し、司令官…?」
提督は長月に走り寄り、言葉を遮るように抱き寄せた。
提督「このバカ!」
長月「ッ!」
提督「俺がそんなことで長月を捨てるって? なぜそう思ったんだ!?」
長月「え……だって……」
提督「逆に考えてみろよ! 俺がもう提督として成長できなくなったら長月は俺を捨てるのか!?」
長月「ばっ、バカな! そんなことあるわけない!」
提督「俺だって同じだ! 当たり前だろ!」
長月「だって……ヒク……だってあれから秘書艦変えたし……ヒック……うぅ……」
提督「あれは、今日の準備のためだ。もう全部正直に言うが、長月には軍令部の実情を見て欲しくなかった……。特にケッコンの話の時は」
長月「け、ケッコン…?」
提督「ああ。お前がLv99になって、あとは俺がケッコンできる状況を作ってやるだけなんだ。絶対に実現してみせる。だから長月、俺とケッコンしてくれ」
長月「う…うぁあああああああああん! うぁぁあああああ!」
長月は声を抑えることなく、提督の腕の中で泣きじゃくった。
提督「なあ、ところであの時、何て言おうとしてたんだ?」
長月「……ん? あの時?」
提督と長月は二人でコタツに入っていた。長月はいつもの定位置ではなく、提督の膝の上に乗り、お互いに体重を任せあっている。
二人はお互いの耳元でささやくように、小声で続けた。
提督「ほら、『ただ現実を受け入れられなかっただけ、もう大丈夫だから最後にもう一度だけ』ってところ」
長月「うっ……いや、その……」
提督「もう恥ずかしがることなんてないだろ? 俺ももう隠し事はなしにするからさ……」
長月「ふぁっ……近い、近いって。耳に息がかかるから……」
提督「言わないともっと近づくぞぉほら、ふーっ」
長月「わ、分かった分かったから! やめろっ、だっ抱いてくれってい、言おうと……」
提督「!! ほう…?」
長月「や、その顔やめろ! あの時はどうかしてたんだ…って耳もやめろ! しつこいぞ!」
提督「そんなこと言って耳好きじゃないか」
長月「ひゃんっ! せっかくいい雰囲気だったのに……全く!」
提督「んーでもさっきから、なんかムズムズしてるみたいに感じるけどなぁ」
長月「こ、こんなに密着してるんだから仕方ないだろ……それに司令官のだって……」
提督「ああ。長月の体温も心臓の鼓動も、匂いもこんなに近くに感じて黙ってるほど俺の主砲はだらしなくないぞ……」
長月「まぁ、知ってるさ……」
提督「それもそうか。じゃあこのあとどうなるかも知ってるよな…?」
長月「…………」
流石に顔を伏せてしまった長月を後ろからもう一度包み込むように抱きしめた。
その暖かさは確かにそこに、一人の『人間』がいることを俺に教えてくれるのだった。
~夜の部へ続く~
提督(この流れなら言える…!)
「なぁ、ちょっとハードなの、やってみないか?」
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Q,このパターンしかないんですか?
A,自然にセクロスに持ち込むにはこれしかないです(大嘘)
次は違うパターンも書きたいですな。次回夜の部。数日以内に。
なるほど、昼の部は健全?なのね
しかし…おめでとう!早くシステムが実装されるといいね!