7月に突入! 一年も半分が過ぎちゃったんですねぇ、時が経つのは早いもんだ。
そして、気付けばかなり久々の更新になっちゃってますね……(´∀`;)
普段は何かを書くと内容的に長い文章を書くことの方が多いので、このたびは練習の意味も込めて短編を書いてみました。
短い中で緩急をつけたりするのって大変だなぁ……
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「いらっしゃいませ。ご注文は?」
「コーヒーを頼むよ」
カウンターで頼んだコーヒーを受け取って、私は空いている席が無いか店内をぐるりと見回した。
最近はすっかり暖かい時期になったから、このS市の中心街にあるカフェにも結構な客がいる。
昼時を迎えて店内はひどく混みあっていたが、表の通りに面したオープンカフェのスペースに空席があるみたいだ。
オープンカフェで飲むことはほとんど無いが、たまには外の空気を味わいながら飲むのも悪くはないか。
淹れたてのコーヒーだけが乗ったトレーを手に空いている席を探す。男性客が一人座っているテーブルに空席を見つけた。
「ここ、座っても良いですか?」
「あぁ、どうぞ」
彼はテーブルの上の端末から手を離し、私に目を向け軽く会釈した。
グレーのスーツで歳は三十代の半ばくらいだろうか。おそらく、この辺りのオフィス街で働く会社員なのだろう。
自分の鞄を椅子の横に置き、一息ついてコーヒーを啜っていると、彼が端末の方を見ながら話しかけてきた。
「ここのコーヒーは少し薄味だが仕事の合間に飲むならこれくらいがちょうどいいね。君もいつもここに?」
「えぇ。いつもは店内の席なんですけどね。今日は無理でしたけど」
「なるほど。私はいつも外の席だし、大抵こんな感じで作業をしながらだから顔を合わせる機会がほとんど無かったわけだ」
彼はちょっとおどけたように肩をすくめてちらりとこちらに視線を向ける。
「作業、ですか……お仕事は何をされてるんですか?」
「うーん……そうだね……保険会社の調査員みたいな仕事かな。主にリストに記載されている方々の死亡日時や死因を確認したりする仕事だよ」
「へぇ、何だか大変そうなお仕事ですね。そのリストに載っている人達って色んな場所に住んでいるわけでしょう? 一人ひとり確認するのって手間が掛かりそうですね」
「確かになかなか面倒な仕事かもしれない。そう考えると現代の情報化社会ってのは良いね。離れた所に居ても遠くの状況を知ることだってできる。
昔は今ほど移動の便も良くなかったし、本当に便利な時代になったもんだよ」
「通信や交通機関に医療技術、便利なのが当たり前な時代ですからね」
「それに伴って人口が増えているのも厄介事なんだけどね。我々のような仕事をしているものからすると忙しいことこの上ない。
まったく、便利になると同時に忙しくもなるとは皮肉なもんだよ」
苦笑しながら彼は端末の画面をこちらに向けた。ディスプレイの中には彼が話していたリストがブルーを基調とした画面一杯に表示されている。
名前や性別、年齢、地域、死亡日時、死因などが書かれていて、書式自体は至って普通のリストだが、何だか違和感を感じる……
扱っている内容とリストの項目のせいでそういう風に感じているだけなのだろうか?
違和感の正体は分からないが、私はとりあえず最初に思っていたことを聞いてみた。
「こんなの部外者に見せても大丈夫なんですか? 個人情報でしょ、これ?」
「あぁ、本当はあんまり良くないんだけど、君には特別に。こんないい天気の日に愚痴みたいな話に付き合ってくれてるしね」
「はぁ……それにしてもこのリストに載ってる人、凄い数ですね」
「そうだろう? しかも、今見てもらっているのはこの地域に居る人の分だけなのさ。別な地域の物ももちろんあるよ。それでこれが――」
彼は端末を自分の方に戻して数回キーを叩くと、再び画面をこちらに向けた。
「私の今日担当する分だ。確認に行くべき場所が散っていて面倒だよ」
リストには20人ほどの名前が載っていた。彼の言う通り、地域の欄を見てみると結構な広範囲に渡っている。
隣の死亡要因の欄には交通事故や急性心不全など様々な事が仔細に書かれている。
さらに隣の欄に目を移した時、先ほどの違和感の正体が分かり、息が止まった。
「死亡日時が……今日……!?」
リスト上の人達の死亡日時が全て今日の日付だった。時間の早い順にソートが掛けられているが、日付は全て間違いなく今日だった。
信じられないという顔で彼の方を見ると、薄っすらと口元に不気味な笑みを浮かべている。しかし、その目はまったく笑っていなかった。
全身の血液が一気に冷えていくような嫌な感覚に襲われ、再び端末に目を戻すと、上から順にリストを追っていく。
心臓の鼓動が加速する。端末に触れる指の震えが止まらない。
閉じてしまいたいと思う気持ちに反して、リストを追う目の動きはだんだんと早くなる。
三分の二ほどの部分で私の目が完全に止まった。
……あった……私の……名前……
吹き出す汗が目に入り視界がわずかにぼやける。瞬きすることもできず、吸い寄せられるように視線が次の項目へと進んでしまう。
《地域:S市4区12番地3-8》
《死亡日時:20XX/07/06 13:18》
《死因:交通事故:オープンカフェでの休憩中に速度超過し運転を誤った大型車両に轢かれる。全身を強く打ち、まもなく死亡》
画面の隅に表示されている時刻表示を見る。
《20XX/07/06 13:17》
「う……うぁ……」
正面に座っている彼にゆっくり視線を戻す。彼は頬杖をついた状態で私と目を合わせると、やはり先ほどと同じ表情のまま左の方を指さした。
恐怖でそちらを見ることができない私の耳に穏やかな空気を引き裂くような轟音が響く――
「本当に便利な時代になったもんだよ。迎えに行く数が爆発的に増え始めた頃は監視する私達の大幅増員なども検討されていたんだがね。
君たちの技術が飛躍的に進歩してくれたお陰で思いの外、効率良く仕事ができるようになってるよ」
彼は手に持っていた端末を鞄にしまい込む。
「ん? 私の仕事の名前? あぁ、おおよそ君の察しの通りだよ…………って、もう聞こえてないか」
襟元を軽く正すと、グレーのスーツの男は揺らめく陽炎のように集まる人だかりの中に消えていった。
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ジャンル的に書きやすそうなホラー系の話にしてみたわけですが、どうでしょう?
「大して怖くない」ってのは作者がひしひしと感じております。要訓練だ……
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デスノートチックですきです!
てか長編作品の序章みたいですね。ホラー系というより推理サスペンス系かな。
ナリマサ先生の文章は全体的に落ち着いているので、ミステリー系サスペンス系が向いているかもしれませんね。キャラクター達の生き生きした感じとかいうよりは淡々と文章で魅せていくスタイルがいい感じです!
正統派っぽいのがいいなぁ。
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>>オトボクスキー
良くも悪くも落ち着いた雰囲気になってる、って感じかぁ。
ミステリーとかサスペンスはよく読むジャンルだから書く時も考えやすいのよね。心理描写も自然に出てくるし。
ただ、今後も新境地の開拓はチャレンジしていきたいですな( ´∀`)
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読むのが遅れて申し訳ない。
ゆっくりとした日常のシーンからの急展開が見せ場ですね!
主人公の感情の変化だけでなく、もう一工夫あると急展開をうまく演出できるのではないでしょうか?
たとえば思い切って主人公は最後まで死ぬことを信じずに、ハラハラ絶望するのは読者に任せるって言うのはどうでしょうか?
心理描写は正反対になりますが、正反対ということはそこまで変わらないとも考えられますしね。
ミステリーっぽさを出すならもっとヒントを減らして主人公が少ないヒントから真実にたどり着く感じでもいいと思います。
文章力は申し分ないですね。流石です!
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>>毛糸氏
ふむふむ。確かに主人公のパーソナルタイプを変えるとかなり様変わりしそうだね。
今回はホラー系ってことであんまり気にせずやったけど、ミステリー色を強くするならヒント出しのさじ加減も難しいよねぇ……
でも、普段考えないようなものを書くと色々課題が見えてきて良いものね(・∀・)