「やっぱ最初はトードマンでしょー」
「えー、E缶考えるとスカルマンだよ!」
わいわいと2人が盛り上がるのを、少し後ろから眺める。今日のゲームは『ロックマン4』らしいが、私はアクションが得意じゃないし、何より今日は小説を読もうと決めているのだ。2人には悪いけれど、置物になろう。……もっとも、私が黙っていても全然気にしないんだろうけど。
「今やるとダイブマンよわっ」
「道中の方がキツいよね!」
2人の声をBGMにページをめくる……けれど、どうにも頭に入ってこない。ミステリーなのにいつまで経ってもそれらしい事件が起きないのだ。ちょっとうんざりした気持ちで読む手を止めて、ゲームをする2人の後ろ姿をぼうっと眺める。
「……あ、雨」
2人の上にある小さい窓に、水滴がぽつぽつと当たっていた。そういえば今日は午後から降水確率80%、しかも夜には雪に変わるかもしれないと天気予報で言っていた。
耳を澄ますとサァァと、本降りになってきた音が聞こえる。心なしか気温も下がったように感じる。……それにも全然気づいてないような2人のために、少しだけ石油ストーブの設定を強くしてあげる。
まったく、本当に子供みたいなんだから。そんなことを思いながら、いつの間にか本を読むのを止めて、片肘を付いてずっと2人を眺めていた。
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「……ありゃ、すーみん眠っちゃったみたい」
「おっ、珍しいな。うーん……ちょっと寒いしな、確かあそこに……」ゴソゴソ
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雨が窓を叩くリズムに、石油ストーブの少し焦げたような匂い、そしてかすかに聞こえるファミコンの音。……なんだろう、凄く懐かしい感じ。
そういえば、小学校の頃こんな感じだったなぁ。体が弱かったから、季節の変わり目とかで学校休んだ時はこうしてストーブを焚いた部屋で、暇だったからこっそりファミコンをやって、お母さんに見つかって怒られて……
「……ってあれ、私眠ってた……?」
「おー、すーみんおはよう!」
「ん、おふぁよう」モグモグ
2人が手を止めてこちらを見る。別に恥ずかしがる仲でもないけど、改めて寝起きを見られるとちょっとこそばゆい感じがする。ゆっくり体を起こすと、いつの間にか背中に掛けられていたタオルケットがぱさりと落ちた。
「あ、ごめん!」
「いいよいいよー。それあたしのひざ掛けだし。っていうかそれしか無くてごめんねー」
「ううん、そんなことないよ! ありがとう、那子ちゃん」
「いえいえ」
そう言うと那子ちゃんは照れたのか、またゲームを再開した。やってるゲームは同じだけれど、心なしかさっきとは何か違う感じがする。なんだろう……
「あっ、音量が小さくなってる!」
「うん、あんまり大きいとすーみんうるさいかなーって思って」
「小波ちゃん……ありがとう」
「えへへー」
小波ちゃんも照れたのだろう、黙ってゲーム画面を見つめてしまった。けれどなんだろう、この幸福感は。一緒にゲームをやって、ゲームのこと、どうでもいいことを話せて、ただそれだけでも楽しいのに。
「2人とも、ありがとう」
「ちょ、もー止めてよー。そういう雰囲気あたし苦手なんだって!」
「えへへ、えへ」
「やっぱり私、那子ちゃんと小波ちゃんと、一緒に居られて良かったって思って」
「だからそういうのは死亡フラグみたいなの止めようって!」
「えへー なこちー顔あかーい!」
「ちょ! こーなーみ!」
「わーい!」パタパタ
賑やかな声が部室に響く。風邪を引いて、独りでゲームをやっていた時からは考えられない、幸せな時間。……時間?
「ってあれ、もうこんな時間じゃないですか!?」
「あははー」「えへへー」
「……もしかして」
「うん。澄、折り畳み傘、持ってるよね?」
「……まさか、傘目当て?」
「まっさかぁ!」「ソンナコトナイヨ!」
「……はぁ。いいです。幸い、なーぜーか2本持ってるので」ゴソゴソ
「いやいや、いつも面倒をかけますねぇ」「ごめんねぇ」
「もぅ……はい、いつも通り2人でこっちを使ってくださいね」
「ありがとうございますぅ」「ありがとう、すーみん!」
「……じゃ、帰りましょうか!」「おー!」
「あ、あそこのコンビニに寄ってこうよー」
「いいねぇ、新作のチーズケーキを買おう」
「また歯が痛くなっても知りませんよ」
「大丈夫、多分。歯磨きしてるし」
「ボクは肉まーん!」
「私はカレーまん?」
「いや、アイスも……」
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というわけでSS形式じゃない&ゲームをあんまりしないれげーぶでした。後半はもういつも通りと化してましたが、自分の中のスタイルがこういうイメージなのでまとめ的にはこうなのかなぁ、と。
読んでお分かりになるか微妙なので解説しますと、今週から週替り企画のテーマが『雨』となります。何事も無ければ来週はアロルノ先生の更新になりますので、お楽しみに!
305開発部ログ
/ 305開発部ログ2 Comments
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やっぱSSと小説(?)だと雰囲気変わりますね。三人以上の会話だと誰が喋ってるのか考える時間が必要になって、その分じっくり読める気がします。ただれげーぶを良く知っている人じゃないと誰が喋ってるか分からないんじゃないかという気もしますね。
「雨」といえば女学生のいちゃつきだってはっきりわかんだね
っかー!やられたー!!!っかー!!!いや大好きですこういうの。
本当好きですさらりと過去話に入ってくるのも泣かせてくるやないすか…!
第11話のときともまた違いますが、これもちょっとした番外編のカタチとしてアリですね。
誰か一人にスポットを当てるならこうして一人称視点で描くのも方法ですね!
↑「れげーぶを良く知っている人じゃないと誰が喋ってるか分からない」は確かに。
しかしいつもと少し違う、番外編的立ち位置だとするとそれも問題ないかなと!