『現実』

BY IN 小説, 週代わり企画 2 COMMENTS


俺は現実に絶望していた。
会社と自宅の往復生活。
代わり映えのしない毎日。
中小企業の割には給料も悪くなかったし、休日も多くはないがまぁそれなりにはとれた。
同僚も良い人が多いし、別に職場には不満はなかった。
ただ、胸の奥につっかえるモヤモヤした感情が抜けなかった。
俺には夢があった。
それは歌手になることだった。
中学でロックに出会い、友人達と一緒にバンドを始めたのだ。俺は楽器を買う金がないという理由でボーカルになった。
はじめはヘタクソでとても聴けたもんじゃなかったが、中高、そして大学と友人と同じ学校に進学していった俺達は地元ではそこそこ名の知れるバンドへと成長した。
こんなこというと自惚れかと思われるかもしれないが、そこそこイケてるバンドだったと思う。はじめは金がないという理由でボーカルをはじめた俺も、バンドを続けて行くうちにロック歌手になることを夢に見ていた。
そして大学も4年になり、俺は友人たちにバンドで、歌で生きて行こうと提案した。
だが、友人達は実家の会社を継ぐとか、普通に就職するといって俺たちのバンドは大学卒業と同時に解散した。そりゃそうだ。音楽で飯を食うということがいったいどういうことなのか。ほんの一握りの人しか成功しない。才能がたとえあったとしても成功する保障はないし、自分達より上の才能を持つ人だってごまんといるはずだ。しかも仮に成功して一曲ヒットが出たとしても、そのあとが続かないで音楽をやめていくミュージシャンは多いのだから。
 俺は悲しかったが、友人たちと同じく地元に戻り、普通に就職した。
就職してもはじめのころは、働きながら休日には音楽活動をライブハウスなどで行って、いつかはメジャーデビューしたいなどと思っていたのだが、現実はそこまで甘くなかった。
就職して間もない頃は人間関係のストレス、慣れない、覚えることの多い仕事が重なり、精神的肉体的な疲労が凄く、自宅に帰ったらご飯を食べて寝るだけ。休みの日も平日の疲労が溜まり、寝だめして家に引きこもる毎日だった。それでもメジャーデビューしたいという想いで、たまには休日にギターの練習をしたり、ボイストレーニングをしたりしていた。だがそれもほとんどはじめの頃だけ。入社して一年経つころには徐々にではあるが任される仕事の量が多くなり、現実に翻弄され、だんだんと音楽活動からは離れて行った。
音楽活動からいったん離れるとたまの連休で暇になっても全くギターに触らないことも珍しくなくなった。それでもゲームやパチンコ、居酒屋で1人呑んでいる時にはなぜか無性に寂しいような悲しいような焦燥感のような得体のしれないモヤモヤが胸の奥でうごめいていた。
 だがそんなモヤモヤも薄れていったある日、ひさびさに一緒にバンドを組んでいた友人達と酒を飲むことになった。酒を飲みながらする話といえば、もうみんな社会人だ。自分の会社の上司がうるさいだの、営業先の担当さんがかわいいだの、なんともまぁ仕事の話ばかりだった。
それでも少しだけ、昔を懐かしみつつ、バンドの話にもなった。昔といってもほんの一年ぐらい前のことだったが、そこは学生と社会人だ。状況が一変していて何年も前のことのようだった。少しだけ胸がチクリとしたが、懐かしく楽しかったあの頃を振り返ってようやく俺は笑えた気がした。
みんなと別れてから、俺は再び楽しかったバンド活動を思い返すことが多くなっていた。
仕事や日常で記憶から遠ざかっていったあの頃をみんなとの呑みで思い出してしまったのだ。楽しかったという記憶だけならただの思い出として昇華できるが、俺は歌手になりたいという思いが再燃してしまった。だが、気づけば入社して2年がたとうとしていた。そろそろ、会社員としても一人前として1人で任される仕事が多くなる。気づけば夜12時近くまで残業する毎日になっていた。当然平日は寝て起きて仕事いって寝るの繰り返し。休日でさえ疲労感が溜まり、一日寝ているだけになった。再燃したはずの熱量は日に日に現実に冷やされていった。
 そんなある日、ひとり会社に残って残業する俺にバンドのメンバーだった友人から一通のメールが届いた。懐かしいものが見つかったからお前も見ろよ!とのこと。メールにはURLが張ってあり、それをおもむろにクリックすると、Yout●beに繋がり、動画が始まった。それは俺らの一番最初のライブ映像だった。ライブといっても中学の頃だから学際の映像だが。ぶっちゃけひどいもんだった。ギターのチューニングずれてるわ、ドラムは走ってるわ、ベースは聴こえない上にボーカルも何言ってるか分からない上に音も外れまくり。でもその時はなぜか、映像を見て涙が止まらなかったのだ。1人会社のデスクで号泣した。
 俺はもう会社をやめて上京しようと考えるようになっていた。もちろん歌手になるためだ。
一人暮らしで、貯金もそこそこあったし、上京してバイトをしながらメジャーデビューを目指そうという気持ちでいた。こうして前向きに考え始めたせいか胸のモヤモヤはだんだんと晴れてくるような気がしていた。

…To be continued.

お久しぶりです。ドテチンです。思ったより長くなりそうなので前後半という形でお話の方は分けさせていただきます。後半はまだ途中なので遅くても来週にはお届けします。
あと、報告が遅れましたHMBの方なのですが、お察しの通り、ほぼ体重の方は落ちませんでした。すみません。食事の方も摂取カロリーは概算で1500以内で抑えている(まれに1000キロカロリー未満の日もあります)のですが、やはり、消費カロリーもおそらく1500前後なのでしょう。まるで落ちません。食事制限はこれ以上無理なのでもはや残るは運動しかないと思っております。度重なる更新の遅れすみません。更新の遅れに関してのお詫びとは別になりますが、個人的にとある企画を進行中です。あまり時間も最近は取れないのでこちらはいつお披露目できるか分かりませんが、まったりお待ちください。

(書いた人: )

2 Comments

  1. 毛糸 |

    気持ちの浮き沈みが繊細でドテチンさんらしいな。
    最初のライブ映像見た時の感情の描写はあえて控えめにしているのかも知れないけど、冷めていく感情が結構詳しく描写されてるのと比べるとちょっと違和感あるかな。まあ言葉にならない感情だっていうのは分かるけどね。
    あとタイトルは現実っていうと「外の世界を知ってしまって挫折した」感を想像してしまうけど、こういう自分の内面的な話なら別の言葉の方が合ってるかも知れんと思った。
    HMBは運動する時間あるのか? あるならさっさと罰ゲーム決めて始めたほうがラクになれるぞw

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  2. KOH |

    相変わらず心の芯から書く文章なんで上手い下手はとにかく心に響く感じです。
    まして自分の現状がそんな感じだとなおさら。
    はてさて物語の主人公はこれからどうするのか…俺の人生もどうなるやら。期待してます!

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