友人宅に、家のドアを開けたら全身が丸ごと映るような大きな鏡を仕掛けた。
普段冷静な彼が驚いたらどんな顔をするのか。ただそれだけの興味で、何人かの仲間とひっそりと準備し、彼が家から出てくるのを隠れて待った。
夜だった。
あのドアからガチャリと鍵が開く音が響いた。
いよいよその瞬間が来るかと思い、僕らはどよめく声を抑えて見守った。
ドアを開いたら、全く同じ格好の自分が居る。
前に進めばいいのか、後ろに戻ればいいのか。
見ているのは自分なのか、見られているのが自分なのか。
彼はどさりと、表情をひとつも変えないままその場に崩れた。
慌てた僕らは彼の元に駆けつけ、あらゆる手を施したが、結局彼はそのまま夢見の人となった。
僕らは大変なことをしてしまったのだと今更になって思う。
連日鏡に向かって、自分とは誰かを問いかけると精神が壊れるという話を聞いたことがあるが、彼に起こったのはそれだったのではないだろうか。
しかし彼があの時、不意の心で見たものは果たして鏡に映った自分だけだったのだろうか。
何か得体の知れない恐ろしいものが、心の隙間にひゅぅと入り込んで、そのままどこかへ連れ去ってしまったのではないか。
僕はそういう気がしてならない。
なぜなら。みんなが夢中になって介抱していたあの時、彼の部屋を映し出していた鏡には、確かに誰かの足先が映っていたのだから。
305開発部ログ
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う…うわあ、うわああああ…!ぞくっとしました。
ショートホラー絶品やないすか…!俺も書いてみようかな…。
そんな僕の家の玄関には大きな鏡が。
ありがとう!
ぜひぜひ小説なり漫画なり、こういう作品でブログを埋めてこうじゃないですか!
姿見なんて怖くない?夜寝る時とか何映ってるか分かんないよ?
うわ普通に鳥肌たった…ガチだこれ
テーマも面白いし説明もすっきりで蛇足感がなくていいですね
王道的ホラーオチですけどもっていき方が上手い
心の隙間って誰にでもある得体の知れないもの、という概念がありますね
自分の知らない自分の弱点、怖い
こういうの大好物ですわ。おかわり!
て、照れるぜ…!
というかこれだけの文でそこまで読み取っててワロタ。
あんまりそういうとこを意識して書いたわけじゃないんだけど、
そんなことを考えてたんだろうなぁと言われて思った。
もうちょっと表現を上手く出来るように次も頑張りますよ!