付き合ってもう30年になるだろうか、そんな友人と飲んでいた時のことである。
「俺さ、ずっと隠してたことがあるんだ」
「なにを?」
「いやさ、じいさんとかオヤジからは絶対見せるな、って言われてるんだけどお前にならいいかなぁって」
「え、なになに?」
しきりにニヤニヤしていた友人はよしっ、と声を出して呼吸を整えると真剣な顔で手を合わせこすり始めた。一体これから何が起こるのだろうか。ワクワクしながら見守っていると、偉い人が拍手をする時のような、合掌の形から手を横に組み直して俺を見た。
「さぁ、ここから中を覗いてみ」
組まれた手のひらの間には暗い空間が広がっているが、一体そこに何があるというのか。真剣な顔の友人を茶化すのも何かと思い、差し出された両手の穴を覗いてみた。
そこにはまるでプラネタリウムのような、星空と見紛う美しい空間が広がっていた。驚いて顔を上げると友人は俺の反応が嬉しかったのだろう、ニコリと笑った。
「俺にもよく分かんないけど、キレイだろ? 擦りが強いと馬頭星雲とかも見えるんだぜ」
なんと本物の宇宙空間と繋がっているようである。
「話ではじいさんのじいさんも出来たらしいんだけど、一子相伝みたいな感じで子供が出来るようになると父親はできなくなるんだと」
「へぇ。でもいいよなぁ、すげぇよなぁ。そういう魔法っていうか、一族の秘伝とか格好いいよ」
「そうか? まぁ確かに格好いいけどこんなんじゃなぁ。もっと、火を出せるとかそういうのが良かった」
そう言って笑い合い、その日は北斗七星や日本じゃ見られない南十字星なんかも見せてもらいながら楽しく過ごした。
それから数日後、友人に同じ酒屋に呼び出された。
「アレ、出来なくなったんだよ」
もちろんアレ、とは手の中に星空を創ることである。なんでも俺に見せたことをきっかけにもう秘密にするのを止めようと思い、合コンでやってたところ全く見えなかったということである。
「まぁ無くても全然いいんだけどさ。それはそれでちょっと寂しいなって」
少し悲しそうな友人を慰め、その日は帰宅した。
家に帰ってから俺は、なんとなく”自分の手のひらの中に生まれた星空”を見ていた。初めて見せてもらったあの日、羨ましくて家でやってみたところ出来てしまったのだ。
「でもこれは教えられないよなぁ」
今日の話でなんとなく分かった。これはきっと”羨ましい”と思った人に移る能力なのだろう。だから友人の一族は秘密にしてきたのだ。
せっかく手に入れた凄い能力――だけどこれを誰かに見せることは出来ない。少し残念な気持ちを抱えながら、今日はプレアデス星団でも見ることにしよう。
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というわけで大学時代から続く『ワンフレーズのセリフから短編を書こう』シリーズ第1回目となります。コメントにこれで書いてみろよオイ!っていうのを募集しますので、よろしかったらぜひ感想の方と合わせてお願いします。
305開発部ログ
/ 305開発部ログ6 Comments
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援交妊娠エンドじゃないだと!?
今回のお題は「てのひらの宇宙」ですか? ダ・カーポをちょっと思い出しました。なんか妙なリアリティあって好きです!
次のお題は何かなー?(人任せ)
ちょっとありがちなタイトルにしすぎたようだw
お題はあの時の「いいよなぁ すげぇよなぁ」でした!
特別な言葉じゃなくてもいいのよー?
てのひらから饅頭をだしてたらダカーポですねww
セリフってことは「~隠してたことがあるんだ」ってこと?
それともタイトルがそのままお題なんでしょうか。
ふふふ、次の人に任せますw
ナニガクルカナー
みんなしてダカーポを思い出すのか…全くそういう気はなかったんだけどなぁ
ドテチンもお題考えて!なんでもいいんだからねっ!
やっぱりKOHさんのSSいいよなぁ~!すげえよなぁ~!
短い文章の中に世界観を詰め込むのが上手いというか起承転結がしっかり表現されているというかいい短編だと思います!
もしよろしければ次のセリフお題は「よっしゃあ!ビリだ!」でお願いします!
一般的には一等賞を取って喜ぶ人が多いわけですが、なぜかビリを取ったはずなのに喜んでいる登場人物の心情をどう表現するのか楽しみです!
おかげさまで書くのに難産しましたよ…
自慢したいけど出来ない、そのモヤッとした感じをもっとうまく表現したかったなぁと思います。
相変わらず突飛なセリフだけどだからこそやりがいが…やれんのかなぁ…頑張ります!