人のふり見て

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「だから安倍政権における今の判断は間違ってないんだ」

やかましいファミレスの環境音にも負けないくらいの大きさで、隣のテーブルから声が聞こえてくる。ちらりと横目で見ると、座っているのはデブなオタクっぽい男と、その隣に人の良さそうな男の子、そしてデブの向かいにはこれまた大人しそうな女の子が居た。


「そもそも批判しているのは過去を勉強していない連中であって…」

なにやらヒートアップするデブ。女の子は興味があるのか振りをしているだけなのか、決してデブの気分を害さないようにしきりに頷き、たまに感嘆の声を上げている。男の子の方も同じような感じだ。

さて、この3人はいったいどういう関係なのだろうか。服装的に大学生っぽいような気もするから、サークルの先輩後輩なのだろうか。しかしそういえば、思い返すと初めは2人で居たような気がするから、もしかして2人は付き合っていて、何らかの流れでこのデブを招かざるを得ないことになったのかもしれない。

「やっぱり僕はね、フー、そう思うんだよ。ね、でしょ!?」

そんな考察を横目にデブの演説はクライマックスを迎えていた。ひきつった笑顔で小さい拍手をするカップル2人。ひとしきり喋って喉が乾いたのだろう、デブはドリンクバーへと席を立ったのだが、2人はデブが完全に見えなくなったのを確認すると、心底疲れた顔で頷き合っていた。

全く、いつの世も相手のことを考えずに喋るヤツはいるものだ。そういうところも考慮して仲良く楽しく会話するのが、先輩・年上の役目っていうもんじゃないだろうか。

……考え事をしていてすっかり冷えてしまったホットコーヒーを一気に飲み干す。待ち合わせの時間は過ぎているはずだけどまだ来ないのだろうか。新しいコーヒーを淹れに席を立とうとした時、見知った顔が近づいてきた。

「あっ、先輩! 遅くなりました!」
「すみません、先輩」

「おー、藤野にりっちゃん。待ってたよぉー。さ、座って。ちょっと聞いて欲しいんだけどさー」

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