紗季のほのぼの事務所ライフ ~キャラ創りコラム:遊びのセリフって?~

BY IN 小説, 週代わり企画 4 COMMENTS

残暑が歩道のアスファルトをじりじりと照らし、その中を会社員や学生など、様々な人が右に左にせわしなく行きかっている。
夏もじきに終わりを迎え、実りの秋がやって来る。そんな街の一角の小さなオフィスビルにて――

「やはり文明の進歩というのは素晴らしい物だね。僕のような文明人には絶対不可欠な要素と言えるだろう」

探偵さんがエアコンの前に陣取り、両手を広げて風を受けている。
一昔前に大ヒットを記録した某豪華客船を舞台にした恋愛映画の中のワンシーンみたいなポーズだ。
劇中ではヒロインがするポーズなので、探偵さんだと性別からしてまるで逆なわけだけど。

「相変わらず大袈裟な言い回しが好きですね、探偵さんは。でも、文明の利器って確かに良いものですよね」

先ほどのポーズのままエアコンと向きあう探偵さんにちょっと笑いながら、わたしも探偵さんの話に乗っかる。
先日解決した事件で依頼主以外に警察側からも感謝状といくらかの報酬を貰うことができたので、わたしがアルバイトをしているこの事務所は古くなった電化製品をいくつか買い換えることができた。
おかげさまで探偵さんもわたしもこの夏の猛暑で干物にならずに済んだ。事件解決前は本当に暑くて、危うくわたしたちが一夏の事件になってしまうところだったからなぁ。

今日は依頼や調査も特に無いので、わたしは事務所のデスクを借りて来週提出する予定の学校の課題を進めている。
個人事務所なので、空き時間ができたら「自由時間に使ってもOK」という風に柔軟に対応してくれるのが、このアルバイトの良い所だと思う。
ちょっと雇い主に癖はあるけど、悪い人ではないしね。
そんな事を考えながら、身につけた真新しい髪飾りを軽く撫でる。

「ふぅ……今日はレポートそろそろ終わりにして休憩にしようかな? 探偵さん、何か飲み物を淹れますけど、一緒に飲みます?」

「おっ、それじゃあ、お言葉に甘えてコーヒーをお願いするよ」

「わかりました。実はこの間買ったサイフォンも早く使ってみたかったんですよね♪」

そう言うと、猫のような軽い足取りで紗季はキッチンの奥へ入っていった――



          ********************


「さて、今回も前回に引き続き、『魅力的なキャラクターを生み出す方法』についての話をしていこうか」

淹れたてのコーヒーを一口飲んでから鑑が話し始める。

「前回は『読者によって異なる、感情移入する対象の傾向』について、でしたっけ?」

紗季はソーサーの上でカップを少し回して持ち直す。

「しっかり覚えてくれていたみたいだね、結構結構。今回は『個性を生み出す遊びのセリフ』について話をしようと思う」

「遊びのセリフ?」

紗季がカップ片手に小首を傾げる。

「うん。動作や癖なんかで登場人物の個性を出すっていうのは僕らもよく思いつく事だけど、これはセリフの部分に関しても当てはまる事なんだ。
物語の本筋の部分でも、それ以外の日常的なパートを描いた部分でも遊びのセリフは効果を発揮することができる。
具体的な手法の話だけど、例えば『語尾や口調を変える』なんてのはすぐに思い当たるだろうね。これは個性付けとしては分かりやすいやり方だね」

「あぁ、小説だけじゃなくてマンガやアニメでも居ますね、そういう登場人物。
語尾が『~であります』とか『~っス』だったり、一人称が「吾輩」とか「わたくし」だったりする感じですね」

「そうそう。でも、今回話したい『遊びのセリフ』っていうのはそういう事だけじゃないんだ。
 口調を工夫するだけじゃなく、その内容にも目を向けて欲しいってことが今回のテーマさ」

「『セリフの内容』ですか……」

「うん。登場人物が話すセリフの内容からも人物像はできていくってことさ。
キャラの趣味や趣向、考え方なんかをセリフの中に盛り込むことでキャラに厚みを出すことができる。
例えば、今回のコラムの冒頭部分で紗季ちゃんが『この間買ったサイフォンを早く使ってみたい』って言ってたよね?
あのセリフから『御堂紗季というキャラクターはコーヒーを淹れるのにちょっとしたこだわりがある』ってことが読み取れる。
さらに、前回の冒頭の部分でもマグカップや紅茶といった物についての描写が書かれているので、紗季ちゃんがそういうものに対して興味があるってことも分かるわけさ」

「確かに。セリフの内容ひとつでも好みとかが結構想像できますね」

「そこがこの手法の良い所だね。だから『キャラ立てが上手く行ってない』ていう時は、この『遊びのセリフ』が不足している、あるいは上手く機能していない、って可能性が考えられるんだ。
登場人物が本筋に関係あることしか言わない作品は彩りに欠けてしまっているからね。冗談を言わせたり、日常的な会話ひとつ取っても魅力的なキャラクターを構成する要素足りえるということさ」

「探偵さんの場合は冗談を言っても冗談に聞こえない感じがしますけど……」

「むっ、心外だなぁ。僕だって冗談の一つや二つ言うこともあるじゃないか?」

「そういうセリフを言うから、いつも冗談に聞こえないんですってば!」

小さなオフィスで繰り広げられる他愛のない探偵と助手のやり取りは窓の外の青空へ吸い込まれていく。
程なくして暮れてゆく秋の色を溶かしながら――

(書いた人: )

4 Comments

  1. 毛糸 |

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    難しいところですねぇ
    キャラクター立たせたい!
    苺さんをもっと魅力的に…!

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  2. ナリマサ |

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    苺さんは名前と容姿がインパクト抜群だから、内面が相当濃い味付けでも大丈夫なんじゃないかな?w
    見た目だけじゃなくて、内面に関連する細かい人物像を考えていくのって楽しいよね~(・∀・)

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  3. オトボクスキッス |

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    なるほど。これは勉強になりますな!
    わしは語尾とかで表面的なキャラ付けばかりなので、みなに愛されるキャラを目指したいですな!

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  4. ナリマサ |

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    物語の中ではキャラ達も“現実に生きて、考えて、行動する”わけだからね~。
    肉付けしてやるのは大変だけど、苦労して生んだキャラなら愛もひとしお( ´∀`)

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