シガレット

BY IN 小説 6 COMMENTS


(写真:PAKUTASOさまより)

「いらっしゃいませー」

朝の8時30分に、決まって彼は訪れる。
少しくたびれたストライプが入った紺色のスーツに、営業職なんだろうか、しっかりしたカバンと鈍く光る使い込まれた革靴が今日もかっこいい。

コツコツと小気味よい音を響かせながら店内を巡り、野菜ジュースとツナマヨのおにぎりを2つを持ってレジにくる。商品をレジに置くと、ズボンのポケットから財布を出しながら彼はこう言う。

「マイルドセブンの8mg、ボックスで」
「少々お待ちください」

――このほんのわずかな、1分くらいであろう時間が、私の毎日のささやかな楽しみなのだ。



あの日も彼はいつもと同じように、野菜ジュースとおにぎり2つを持ってレジにやってきた。彼がレジに来て、商品を置いて、そして財布を引き抜くのを見とめたとき、私は何気なく言葉を発した。

「いつものですよね?」

彼は少しバツが悪そうな笑顔を浮かべて、はい、と笑った。はにかむようなその表情が、ぱたぱたと駆けていくその動きが可愛くて、私はますます彼のことを好きになったような気がした。

けれども彼はそれから来なくなった。
なぜだろうか。いろいろ考えてみたけど分からなかった。
分からなかったから、彼がいつも買っていた『マイルドセブンの8mg』を吸ってみた。
色のついた煙が肺の中に染みて、私の体を重くしたように感じた。舌先がピリピリ痛む。

「やっぱり、おいしくない」


<おわり>

俺的ささめき第3弾。文章のリズムがアロルノ先生と違うんで雰囲気は違いますね。
マイセンがメビウスに名前変わっちゃうので、その思い出ということで。

(書いた人: )

6 Comments

  1. アロルノ |

    う…うわあ、うわああああ!!!たまらんです、キュンときました!
    というか俺の書きたい感じの文章とすごく近いです!鳥肌でした!

    これ、これマジでコピー本に掲載させてください。お願いします。
    あたたかくて、やわらかくて、それでいて儚い。このお話大好きです。

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    • KOH |

      勝手にささめきと銘打つのもなぁーと思って敬遠したけど
      アロルノ先生が思うようなので良かった!

      文章でもいいけど漫画でもいいかもしれないねー

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  2. 土手沈 |

    短いのにいいシーンだけを抜き取って描写できる。
    やはりKOHさんはカメラマンや編集者なんかに向いてるんじゃないでしょうか。
    素晴らしい作品でした!
    あとタバコのくだりはパルフェの影響ですか?
    前に好きっていってましたよね!

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    • KOH |

      何も気負わずに書いたやつだからそこまで言われると恥ずかしいなw
      タバコは女の子が好きな人の真似をしたくて、っていうことだから
      まぁ確かにパルフェとシチュエーション的には同じか。

      体に良くないから吸わないし吸ってる女の人は嫌だけど、小道具としては素敵だよね

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