最近野良犬をまったく見なくなった。僕がまだ幼稚園児だった頃は、段ボール箱に『拾ってください』の文字とともに子犬が4匹くらい捨てられるのを見たこともあったけれど、そういうのも見ない。
それだけ治安が良くなったとか、犬に対する人の意識が変わってきたということなんだろうけど、なんというか、あの野良犬の気取らない姿は今になって思えばかなりかっこいいものがあったように感じる。
僕がまだ幼稚園に通っていた頃の話だ。母と歩く百メートルちょっとの間に、白い野良犬がよくいた。白い、といっても毛は土で汚れて目やにも付いていて、お世辞にも綺麗な犬ではなかった。
その犬はしょっちゅう外で飼われている他の犬のそばに居た。しかも行動範囲も中々に広く、色々な場所で茶色や黒い犬とかの側に座る姿を見た。母はその犬を『タネちゃん』と呼んでいた。
当時の僕としてはその名前の意味が全然分からなかったが、今になって分かる。あの犬は交尾しに行っていたのだ。いわゆる人間でいうところのヤリチン、いや囲われた女性に会いに行くのはまるで平安貴族ともいえよう。とにかくオスの本能の赴くまま、たくさんの犬と交尾していたのだ。
なんとかっこいいのだろうか。自分の欲望に忠実に生き、浮き名を流すプレイボーイ。恋多きその姿はまるでフーテンの寅さんのようではないか。
20代後半を迎えてなお童貞の自分としては、彼のあの自由な生き方が妙にかっこ良く思える。ちょっかいを出しに行った犬の飼い主に思い切り怒鳴られている姿も見たことはあるが、それでもなお、彼は自分に忠実に生きていた。ハードボイルドみたいなものを感じるのだ。
彼を最後に見たのは小学生に上がって少ししてから、帰り道でだった。僕より少し前を、その少し赤みがかった肛門をちらちら見せながら、とことこ歩いて行った。
彼はまたどこか、新しい刺激を求めて遠くへ旅立っていったのだろう。僕もそんな男になりたいと思う。
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というわけで週代わり企画、今回からテーマは『動物』になります。広いテーマなので感動話とかケモッ娘でも良かったんですが、何を血迷ったかこういう話に。ちなみに実話です。
305開発部ログ
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母のネーミングセンスが最高すぎてw
擬人化するとタマラン話になりますなぁ
箱入りケモ娘イイなぁ
箱詰め娘もイイなぁ
今思うと大分えげつないアダ名なんだよねw
擬人化ねぇ、着飾った箱入りのケモ娘に箱詰め……箱詰め!?
野良犬なんてまず見かけないし、母親のネーミングもアレなので、創作かと思ったら実話なのねw
そして、犬が出てくる話って色々あるけど、こういう話で来ましたか。
ちょっとコミカルだけど、何かほっこりしましたわ。